ホープ オブ ザ デッド二話

自作小説:ホープ オブ ザ デッド

教会の隠し通路は、地下の排水トンネルへと続いていた。湿った空気が肌にまとわりつき、足元では汚水が靴を濡らす。それでもジムとロータスは迷いなく進み続けた。彼らの腕にはトランクがしっかりと抱えられている。その中には、ゾンビ社会の未来を揺るがす生きたヒューマンが眠っていた。

「ジム、あんたこれどうするつもりだ?国中がこのヒューマンを狙ってるんだぞ。」

ロータスは息を切らしながら問いかけた。

「決まってるだろう。俺たちが奴をボスのところに届ける。それだけだ。」

ジムは冷静に答える。だがその目には、いつもの反骨精神に混じってわずかな迷いが浮かんでいた。

「でも、どうやって?リバイバリストだけじゃない。ノーマル政府だって奴を見つけるためなら手段を選ばないさっき見たニュースだってそうだろう?」

「だから急ぐんだよ、ロータス。」

トランクを見下ろしながらジムは言った。「こいつが何者なのか、そいつを知るまで俺たちは動き続ける。」

地上では、リバイバリストとノーマルの衝突がさらに激化していた。旧ニューヨーク市庁舎前では、リバイバリストの集団が「救世主(ヒューマン)の復活」を叫び、火炎瓶を投げつけている。警察部隊が催涙ガスを使い応戦するも、その混乱は収まる気配を見せない。

一方、ゾンビ社会を統べるアダム・ベンフォード大統領は、旧ホワイトハウスの執務室で頭を抱えていた。机の上には、人間だった頃の世界地図と、ヒューマンの写真が置かれている。

「ヒューマンは生存している。」

彼の前に立つ国防長官が報告を続けた。「現在、リバイバリストがトランクを奪取しようとしている模様です。」

「リバイバリストどもがこれを利用すれば、我々の統治体制が崩壊する。彼らの主張が真実として広まれば…」

アダムは言葉を切り、地図を見下ろした。その視線は険しいものだった。

「なんとしても探し出せ。ゾンビの歴史を守るんだ。」

国防長官は黙って頷き、部屋を後にした。その背中を見送りながら、アダムは拳を握りしめる。

「ゾンビ社会の秩序を守る。それが私の使命だ…たとえ、どんな犠牲を払おうとも。」

トンネルを抜けた先に広がっていたのは、荒廃したスラム街だった。かつてマンハッタンと呼ばれた場所は、今では廃墟同然の姿をさらしている。

ジムとロータスは、慎重に建物の影を伝いながら進んでいた。しかし、二人の背後には追跡者が迫っていた。

「ジム、奴らが来てる。」ロータスが囁く。

「わかってる。」ジムは立ち止まり、トランクを地面に置いた。そして腰に差した拳銃を引き抜く。

遠くの路地から、黒ずくめのゾンビの一団が現れた。リバイバリストの兵士たちだ。顔には傷跡が走り、目は狂気に満ちている。

「ヒューマンを渡せ!」一人が叫ぶ。

「渡したらどうするんだ?」ジムは皮肉っぽく言い返す。「奴を神様にでもするつもりか?」

「奴は救世主だ!お前らノーマルの犬どもにはわからないだろうがな!」

「ノーマルの犬だと?そいつは心外だな。」ジムは銃を構えた。「俺はただ、面白いほうに賭けるだけだ。」

ロータスも銃を抜き、ジムに並んで構える。「あんたのそういうとこ、嫌いじゃないよ。」

一触即発の緊張感の中、リバイバリストたちが武器を構える。その瞬間、遠くから爆発音が響いた。

「くそ、あいつらまで来たのか…!」ロータスが呟く。

空にはノーマル政府の無人偵察機が飛び交い、次々とミサイルを撃ち込んでいる。リバイバリストもノーマルも、ヒューマンを巡る争いの中で互いに攻撃を始めた。

「ジム、ここじゃ挟み撃ちだ。逃げるぞ!」

ジムはトランクを抱え直し、ロータスと共に混乱の中を走り抜けた。

廃工場にたどり着き、二人は息を整えるために隠れた。周囲に追っ手の姿は見えない。

「ジム、あんたそのトランクの中を調べたのか?」

「いや、まだだ。」

ロータスは眉をひそめた。「そいつがただのヒューマンじゃないのは明らかだろ。開けて確かめたほうがいい。」

ジムは黙ってトランクを床に置き、慎重にロックを解除した。中から現れた少年は、青白い肌でまだ目を閉じている。だが、その顔には奇妙な刺青のような文様が刻まれていた。

「これは…なんだ?」ロータスがつぶやく。

その時、少女の目がゆっくりと開いた。その瞳は冷たい青色で、まるで人間のものではないように見えた。

「…お前、何者だ?」ジムが問いかける。

少女は微笑み、かすれた声で言った。

「私は…お前たちの母だ。」

次回:ゾンビ社会にとって致命的な真実が明らかになる中、ジムとロータスはさらなる追撃に巻き込まれる。彼らは少女を守り抜けるのか?そして、少女の言葉の意味とは何なのか?

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