救国大臣日本を救う

自作小説

時は令和X年。色々な意味で混迷を極める日本に宇宙からの侵略者が現れた。

東京湾に降下してきた機動要塞は多数の円盤を放出し、司令塔らしき巨大円盤からは日本語によるアナウンスが流れ始めた。

「我々はシリウス星から来た高次元宇宙生命体である!人類の代表者との対話を望むものだ!!!」

巨大円盤は千代田区永田町の国会議事堂を目指して飛行し、緊急出動した米軍の戦闘機を怪光線で撃ち落としつつ市街地の上を飛んでいた。


この未曾有の大混乱により、前政権の石張内閣は崩壊。新たな総理大臣として、小子泉進士郎が指名された。

小子泉進士郎は米コロンビア大学を卒業後、弱冠40歳にして環境大臣や農林水産大臣を歴任し、古古古古米等を放出するなどして、国民の飢饉を救うなどした功績が認められたのだ。

また、言われたことをやる真面目さと、バカがつくほどの正直さが取り柄であり、先日の首相就任の演説では、国民に笑顔でこう語りかけた。

「私が首相に就任したということは、国民が新たな首相を望んでいるということであり、また、今のままではいけないということなのです。」

「つまり、今のままではいけないと思っている。だからこそ、日本は今のままではいけないと思っている。」

小子泉総理はパフォーマンスで壇上で右手を差し出しつつ、こう締め括った。

「クールでセクシーな対話で、宇宙人との武力衝突をクールに解決していくつもりです。」


宇宙からの侵略者はあっという間に首相官邸に巨大円盤を降下させ、円盤からの怪光線で首相官邸の前の自衛隊車両を殲滅すると、玄関までホバリングしてきた。

中から現れたのは、触手のような頭を持った宇宙人だ。小子泉総理は来客用のイスに宇宙人を座らせ、向かいにすわる小子泉総理と対話し始めた。

「先に言っておくが、我々はこの星を侵略しに来たのではない。今後のお前たちの行動によっては、このまま人類を滅ぼさずにいることも可能だ。」

「なるほど、なぜ人類を滅ぼすのですか?」

「お前たち人類は環境破壊を始め、狭い領土で揉めて、さんざん憎しみあってきたではないか。苦しむのは破壊され住処を失った動物たちやお前たち人間だというのに。ここ100年間に至っては大量破壊兵器をはじめとした国家間の武力外交で、たくさんの命が失われた。そして、自分たちのためにたくさんの自然を破壊してきたのだ。いずれお前たちのような種族が宇宙に旅立つようなことがあれば、必ずや多くの星が滅びてしまうだろう。だからそうなる前に今ここで滅すかどうかを見極めに来たのだ。」

「な、なるほど、、、」

「ここ日本という国は、先の大戦で大量破壊兵器の被害を受け、大変な思いをして以来、相手を憎むようなことをせず、世界での稀な経済発展を遂げ、中国との戦争も、以前は敵だったアメリカとの戦略外交によって避けることができていると聞く。我々はこの国の代表者と対話を行うことで、この星の命運を決めることにしたのだ。そこで聞くが、なぜ人類はこのように憎しみあい、戦争や環境破壊を止めることはできないのだ?」

クリティカルな問いかけを投げた宇宙人に、小子泉総理はしばらく考えてから口を開いた。

「政治には非常に多くの問題があり、時には退屈です。まず、気候変動のような大規模な問題に取り組むとき、それは楽しくなければならず、クールでなければなりません。それもセクシーでなければなりません。それをどういう意味かって説明すること自体がセクシーじゃないよね。」

「?」

「そして、人類が対立をやめられないのは、人類が争うからです。それはどういうことかというと、人類同士の争いがなくなることはないということなのです。言い換えれば、人類は争わないということはあり得ないということなのです。」

「…????」

「どういうことなのだ、我々の翻訳が間違っていつのだろうか?」小子泉総理の主張する論理に、宇宙人たちの間では沈黙が広がった。


「政治的な宗教や思想が人類を駆り立てるのは、人類がまとまるためであり、人類が対立を生むということなのです。つまり、人類は対立するということなのです。そしてそれをどうにかしなければいけないということなのです。」

「それは、つまり…」

「人類が宇宙進出を始めるのはいつかわかりませんが、宇宙人さんのお話を聞いているときに、100年後の自分は何歳かなと考えました。今は44歳なので、誕生日を迎えると私は45歳になります。これを100年続ければ、145歳ということになります。だからこそ、私は今後100年間のための約束は守るためにありますから、約束を守ります。」

「…」

「宇宙人さんと初めて会ったときに思ったんですよ。まるで初めて会ったみたいだって。なんでも初めてということは今までやったことがないということですからね。初めてということは、チャレンジングであるということです。だからこそ、チャレンジするべきなのです。」

「そういう……こと……か……」

人類の未来について語った小子泉総理に、宇宙人の脳はオーバーヒートによりその生命を終えようとしていた。

「我々はどうやらいったん撤退が必要なようだ。最後に、具体的に何をして解決に導くのか教えてくれ。」

「会話というのは、自分のターンが終了したとき相手のターンになるのです。野球部員だった私は水筒を使っていたけど、環境配慮の観点で水筒を使っていなかった。そして今は、メガソーラーにより環境に配慮し、移民大量受け入れにより戦争より融和を目指しているのです。水と油も混ざればドレッシングになる。」

「ああ、分かった。貴様らの、価値を認めよう…ではいったん引き上げて偵察を行うこととする…」

宇宙人の司令官はそこまで話すと生命機能を停止し、司令官が人類に敗れたことを察知した宇宙人たちは地球上から撤退していった。

高度な知的生命体であることが、小子泉総理の前では皮肉にも仇となる形となったのだった。


それから1週間経ったあと、宇宙人たちは再び日本を訪れていた。

その時、

「うわあ!なんだあの光はあ!」

大量のソーラーパネルの反射光で目が眩んだ宇宙人たちは、操縦のバランスを崩し、埼玉県川口市へと落下した。

落ちてきた円盤を囲んだクルド人たちは、宇宙人たちが気を失っている間に、円盤の外装やエンジンを全て引き剥がしてしまい、飛べなくしてしまった。

これにより日本政府は円盤の仕組みを全て解明。地球になかった知的生命体の技術を全て手に入れることができた。

大いなる対話で人類を滅亡の危機から救った小子泉大臣はそれから世界の救世主として扱われるようになり、次期総裁選では満場一致で二期目の内閣総理大臣として選出された。

「小子泉総理!宇宙人との対話の中で仰った、セクシーな解決とはどういうことなのでしょう!」

「それを説明すること自体、セクシーなことではありませんね。次の方、どうぞ」

総理大臣就任後、記念記者会見で、小子泉総理はテレビや記者からの質問に答えていた。

「総理が宇宙人と対話した際、心がけていたことを教えてください!」

「私は常に心がけていることは自分の話している言葉に「体温」と「体重」を乗せることです。実際言葉に体温と体重はありません。温度を測れることはできないし、体重を量ることもできません。重さを測ることができません。だけど必ず言葉には「温度・体温」、それが乗ります。そして受け取る側の「感じる重量」。それが必ずあると僕は信じています。」

「最後に一言、お願いします!」

「もう暗くなってきましたね。日月は経つのが早いものです。年末年始。年の瀬。師走。こういう言葉を聞くたびにね、いつもこう思ってきました。もうすぐ新年だな、と。」

小子泉総理は満面の笑みを受けべると、こう付け加えた。

「力を、パワーに」

宇宙のため、平和のため。この言葉は全世界にとってこの上なく素晴らしい言葉だった。

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