麻酔科医の幻覚

自作小説

麻酔医の水原氏は、大金持ちだ。

ランボルギーニを乗り回し、東京港区に居を構え、家政婦が何人も働いていた。

麻酔医として成功したのは、フリーランスで独立を果たし、日本全国、いや今や世界中で彼の技術を必要とする難手術があるからだ。

今日は大阪。明日は東京。明後日はラスベガスへ飛ぶ。

数カ国語を話す水原氏のもとに、今日も人生の秘訣を尋ねてくる記者がいた。

「成功の秘訣ぅ?それは、運だね。君にも成功が訪れるように、祈ってるよ」

記者にはこう言ってやるとたいてい喜ばれる。この手の取材は飽きるほど受けてきたのだ。

有名人の水原氏の周りには何人もの美女がおり、水原氏はもうこの世で何も望むものはないと思っていた。


ピッ。ピッ。ピッ。ピッ。

無機質な心電図の機械音が、暗い部屋で音を鳴らし続ける。

山なりの波形が流れては消えてゆく、、

腕には輸液用のチューブが繋がれ、口には酸素マスクが付けられていた。

「ん、、ここは、、」

そうだ。思い出した。

私は麻酔医ではない。ただの医学部志望の浪人生だ。

「またやってしまったのか、、」

水原は受験勉強の苦労から、風邪薬を大量に飲み込んでODし、医者になって成功する幻覚を見て、よくこの病院に運ばれてくる常連だった。

現役生の頃は、東大を偏差値も伴っていないのに高望みし、ロクな滑り止めも考えなかったため、結局浪人することにし、高校卒業後通い始めた河合塾も、講師が嫌いだと言う理由で宅浪を選択した。

宅浪では結局学力が現役生のころよりもガクッと下がり、東大を受験したもののもちろん不合格。「退路を断つ」という、身勝手な理由で滑り止めの大学も受験せず、また浪人。

こういったことを繰り返すうちに、私のかつての仲間は就活を終え、社会人になってしまった。

こうなってしまっては、就職のことを考えると医学部しかない。

つまらない志望理由だが、それが現実だ。

友達にはなんと言い訳すれば、、運がなかったと言い訳しようか、、

「ひっ、ひっ、ひっ、うっ、うっ、うっ、俺は何度同じことを繰り返すんだ、、、、!」

「ん?繰り返す?」

ドドドド、ガラッ!

病室の扉を勢いよく開け、傾れ込むようにして入ってきたのは、院内ではキモオタとして有名な精神科医だった。丸いタヌキのような風貌をしている。

「デュフフwwお主の状況は「涼宮ハルヒの憂鬱」の第二期、エンドレスエイトと呼ばれる状況にとてもよく似ているでござるな。コポォ」

「いやちょっとよくわかんないです」

「デュフコポォw、お主、さては受験という状況を何クールもしているでござるな?今は何クール目でござるか?」

「四年目です、、」

「デュフコポォww、涼宮ハルヒの二期という作品は、主人公のハルヒという女の子がこの日常を終わらせたくないと願ってしまうことで何回も繰り返してしまう作品でござるww。そこで長門有希という登場人物がその状況を一人孤独に観測し続けていていたのでござるよ。お主の場合は、この長門有希の置かれた状況にとてもとく似ている、、つまり、今の現状を打破するカギも「涼宮ハルヒ」のアニメに隠されているに違いないでござる!よってただいまよりアニメ療法を開始する!コポォ」

有無を言わさずにタヌキのような精神科医は、水原にアニメ療法を開始した。

一通りの治療を受け水原は新たな浪人生活をスタートした。

「もう医学部行くしかないやん、、」

水原の目には迷いはなかった。これまでの人生をここで巻き返すしかない。

水原の学習机の周りには、これまで見てきた大量のアニメキャラの萌え絵が掛けられており、水原の受験を応援しているようだった。

水原は孤独ではない。

水原は、迷わない。アニメが、生き方を変えてくれたのだから。

次の年、水原くんは特待生で医学部に入学したのだった。


医学部では必ず話題になる話がある。

「お前、何浪したんだっけ?」

水原はこう答えるようにしている

「それは禁則事項です♪」


タイトルとURLをコピーしました