救急医の経験症例

自作小説

「死なせてくれよ、、」

先ほど救急車で運ばれてきた患者は、自殺を失敗しており、目が覚めた第一声がこれだった。

「なんで助けたんや、、」

患者は、アパートの一角で一酸化炭素中毒の状態で発見された。異臭に気付いた住人が報告してくれたのだった。

聞けば、つい最近まで30年勤め上げてきた工場をクビになり、嫁にも逃げられたばかりなのだという。

海外からの技能実習生たちに仕事を奪われてしまったのだそうだ。

技能実習だという名目なのに、やらせているのは低賃金の仕事ばかり。この患者を雇っていた企業も、30年という患者のキャリアよりも低賃金を優先したのだろう。

結果、患者は嫁にも逃げられ、ヤケを起こし、自殺を試みた。

自殺を図るのは、そのアパートにも迷惑な話だとは思うが、企業も無責任だ。

仕事は、低賃金の”奴隷”にやらせれば良い。

こういった薄気味悪い日本の醜悪な部分が、この患者を産んだのだろう。

医師としてできることは何か。

カンファレンスを行った結果、患者は精神科へと転送されることとなった。


「デュフフフww、お主は嫁さんに逃げられたでござるかwww。三次元の嫁はめんどくさいでござるなwww。拙者のお嫁さんはいっぱいいるでござるが、みんな逃げたりしないでござるよwwwww、みんな二次元だから。デュフフフwww。」

この精神科医はキモオタとして院内では有名な精神科医だ。丸いタヌキのような見た目をしている。

「生きる希望がない?デュフフフwww、そんなことないでござるよ。小生なんか、今日も推しのお嫁たんを育てるために働いでいるでござるよwww w、二次元のお嫁さんは逃げたりしないでござるからねwww、お主にはまず、女の子を育成するアニメを処方するでござるよwww、アイドルマスター、ちょい古いけど、ときめきメモリアル、リトルバスターズもいいでござるな、新しいやつだとブルーアーカイブとかでござるなwwww」

半年が経過した。

精神科の経過は長い。人の精神は見えない分、繊細で扱いが難しい。

患者は精神科の熱心な治療により、アニメに釘付けになった。

アニメは、趣味になった。

精神科医の手引きのもと、アニメ好きのコミュニティにも紹介されたらしく、仲間も増えた。

二次元の治療が、患者には効いたのだった。

退院の日

「いやー、退院でござるかwwww、自殺なんてしないほうがいいでござるよwwwww」

「そうですね、新しいお嫁さんのためにも、仕事を探さないといけませんからね。」

そう言った患者の服には、二次元のお嫁さんがデカデカとプリントされていた。

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