道頓堀のアルコホリック

ご当地小説

大阪・道頓堀。ここは大阪の中心部を流れる道頓堀川が流れており、ここに架かる橋は古くから男女の出会いの場として、大阪で親しまれてきた。

「君さ、マッチングアプリ向いてないと思うよ。」

二十歳になるルビーは、話題のマッチングアプリをインストールして、初めて出会った男にここ道頓堀でこう言われた。

男はさらに畳み掛ける。

「そもそもさ、マッチングアプリなのに何が電話は苦手ですだよ、会ったら会ったで全然喋んねーしさ、気難しいんだよ全く、可愛げがねえっつうの、オマエ」

ショウと名乗ったその男は、二十代半ばにして年収500万、身長175cm、車あり。とのことだった。顔は中の上ぐらいだ。情報はこれだけで、プロフィールはほとんど記載されていなかった。

「この後カラオケ行こうって誘ったら、門限とかいいやがる。なんだよ、二十歳になってまで門限か?ママからミルクもらえる時間でも決まってんのかよ全くよ、マチアプってのはな、もっと大人が交わる場なんだよ、お前みたいなガキが来るところじゃねえの。」

ルビーは男のプロフィールを思い出していた。

たしか、『後悔させないから右にスワイプしよ〜』だったか。

ルビーの足が、恐怖ですくむ。

「いえ、あの、、」声がうまく出ない。

ショウと連絡を取ったのは昨日だ。マッチしてすぐにラインを交換した。ラインの方が気付きやすいからだそうだ。会話テンポも良かった。それに、プロフィールの写真はもっとカッコよかった。

「あ〜時間無駄にしたわ。お前もうマチアプやめろよ。あと顔もそんなにかわいくないし。じゃ。」

「あっ、あっ、、」

ショウは吐き捨てるようにその場を去った。

ルビーは呆然としてその場に立ち尽くした。

道頓堀から人混みに紛れて見上げるグリコの看板が、一部始終を見ていたかのように知った顔をして不気味に見えた。

怖い。男が怖い。

ルビーはいわゆる、男性恐怖症だった。

いつからだったか、男性を避け続けてきた。中学から高校になるにつれ、男性とはどんどん距離を置くようになっていった。

喋りかけられると怖い。触れられるともっと怖い。

いつだったか、同級生が軽い握手のつもりで手を差し出し、ルビーはそれに思わず手を払いのけた。

それから男子に疎まれ、女子のいじめっ子にも目をつけられるようになった。

ルビーには、女子としての居場所も作れなくなっていった。

人間として社会で生きていく以上、異性と関わらないといけない。

男性が怖い自分すら怖くなった。

自分の居場所がなくなるのはもっと怖い。

ある日ネットで見つけたアドバイスには、「マッチングアプリならすぐ男性と出会えるから男性恐怖症を克服できる」と書いてあった。

しかし、今日出会ったショウは、すぐに私と手を繋ごうとしてきたし、初対面でカラオケに二人で入るのには抵抗があった。

ショウとの出会いは、ルビーの男性恐怖症をいたずらに悪化させただけだった。

もう嫌だ。消えてしまいたい。

ルビーはまだ慣れない酒を一気に飲み干し、酩酊状態のまま道頓堀の川に身を投げた。


「デュフフフwww拙者は精神科医でござるよwwww。見ての通りの生粋のアニオタでござるwwww。道頓堀の川に身を投げたお主の主治医をするでござるよwwwwコポォ」

道頓堀に身を投げたルビーは、通行人にすぐに助けられ、近くの病院に搬送されることとなった。

道頓堀の川の水をいくらか吸い込んだが、他にもこれまで道頓堀に飛び込んだ人はたくさんいるので、なんのことはない。

そしてルビーに自己紹介をしてきたこの精神科医は院内では有名なアニオタだそうだ。看護師さんに紹介してもらった。丸いタヌキのような見た目をしている。

「デュフコポォwwwww男なんてみんなチワワみたいなもんでござるよwwwwいやお猿さんといったらいいでござるかwwwww、そのショウという男もお猿さんの一種でござるよwwwwwww、そのマチアプで出会ったショウという男も、ただカラオケしたかっただけでござるよwwwwたぶん」

「はあ」

「デュフフフwwww、お主には男性恐怖症を克服することができる施設にいってもらうのが一番いいでござるな、、拙者行きつけのカフェ、あるこほりっく大阪院でござるwwwww」

「なんですか、それ、、、」

「見た方が早いでござるよwwww、さっ、行くでがんす。」

精神科医に連れられ案内されたのは、道頓堀の近くにあるコンセプトカフェだった。

コンセプトカフェというのはメイド喫茶ともいう。

若い女性がかわいい制服を着て、男性客にメニューを提供するのだ。

普通の店の食事よりも倍の値段はするが、メイドさんに提供してもらえるのだから、その価値は十分にある。

「お帰りなさいませ!ご主人様!」

入店するとナース服の女の子たちに挨拶をされた。

「デュフフフwwwww、ここは秋葉原発祥の、病院の看護師さんをイメージしたコンセプトカフェでござるwwwwwww、お酒も注射器で口に入れてもらえるでござるよwwwww、ルビーちゃんもここの店員になるでござるwwwww、店員さんはみんな楽しそうでござるよwwwwww、というか治療なのでここで働けでござるwwww」

「は、はい、、」

ルビーは精神科医の紹介であるこほりっく大阪院で働くことになった。

そこからルビーは自分の空いてる日はあるこほりっく大阪院にシフトで入ることにした。

そしてシフトに入れば必ずあの精神科医がいた。

あの精神科医に毎回高いお酒の注文をされ、チェキも何枚も撮った。チップだっていくらでもらえた。注射器で口にお酒を入れるサービスも何度もやった。

ルビーの売り上げは徐々に伸びていき、あるこほりっく大阪院で徐々に認められるようになっていった。

それと比例するように、ルビーの男性恐怖症も治っていった。

ルビーの話す内容に大げさにはしゃぐ男たちを見ていると、男に対する恐怖は自然と和らいでいったのだ。

ルビーの売り上げに一番貢献していたあの精神科医は、相変わらず今日も来ている。

遂にルビーは、あるこほりっく大阪院のナンバーワンに抜擢された。

ルビーの記念にと店側が開いた宴会の席で、一言求められたルビーはこう言い放った。

「オトコって、おもしれえ!」

宴会で酔ったルビーは帰り道、道頓堀のグリコの看板の下で、グリコと同じポーズをしてみせた。

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